患者も病院も負担増――ドイツ健康保険改革の実態/第922号

目次

ドイツで健康保険財政を立て直すための歳出削減策が、連邦議会と連邦参議院を通過しました。

患者や加入者の負担を増やす一方で、病院や診療所への支払いも抑える内容です。

ドイツの公的健康保険は深刻な財政不足に直面しています。ヴァルケン保健相が進める改革では、処方薬の自己負担引き上げ、入れ歯や差し歯などに対する給付の削減、配偶者などの無料加入の制限が盛り込まれました。

負担を求められるのは患者や加入者だけではありません。病院や診療所への報酬の伸びも抑えられ、病院職員の賃上げに対する健保側の補填も縮小されます。

すでに診察を受けられる医療機関を探すこと自体が難しい地域もある中で、今回の改革は健康保険制度を立て直すことができるのでしょうか。それとも、医療へのアクセスをさらに悪化させる切り詰め策となるのでしょうか。

前回出題分

健康保険改革。改革という名の切り詰め策の始まりか。

Weg frei für Warkens Krankenkassenreform: Bundestag und Bundesrat beschließen Sparpaket

Nach dem Bundestag hat auch der Bundesrat dem Gesetz der Gesundheitsministerin zugestimmt. SPD-geführte Länder hatten dafür plädiert, den Vermittlungsausschuss anzurufen.

tagesspiegel.de
http://enchan.net/xl/OLvCmu

わたしの訳

ヴァルケンの健康保険改革への道が開かれる:連邦議会と連邦参議院が歳出削減策を可決

連邦議会に続き、連邦参議院も保健相の法案を承認した。SPD政権州は両院協議会を招集するよう求めていた。

コメントなど

具体的にどんな負担増があるかをまとめてみました。

対象現在改革後
処方薬の自己負担5~10ユーロ7.50~15ユーロ
入れ歯・差し歯などの治療費用の60%50%へ引き下げ
ホメオパシー(注1)保険給付あり保険給付を廃止
無症状者の皮膚がん検診成人は2年ごとに受診可能給付内容を再検討
高所得者の保険料月収5,812.50ユーロまでが算定対象2027年に算定上限をさらに300ユーロ引き上げ
配偶者・パートナーの無料加入一定条件で無料対象を制限し、2028年から一部(注2)に2.5%の追加保険料
(注1)ホメオパシーは、植物や鉱物などの成分を極端に薄めたものを使い、体が本来持つ治癒力を引き出そうとする代替医療。科学的な有効性には強い疑問があり、ドイツでは一部の公的健康保険が任意サービスとして費用を負担している。
(注2)子どもが12歳未満の親、高齢者、障害者、要介護者を介護している人などには、配偶者等の無料加入を継続する例外がある。

負担増は患者や加入者だけでなく、医療機関側にも求められます。

診療報酬の伸びの抑制、診療所への追加報酬廃止、薬局・製薬会社への割引強化などです。

両院協議会(Vermittlungsausschuss)についての記述がありました。今回、SPDが政権を担う州が問題視した中心は、病院職員の賃金が上がっても、その増加分を健保組合が全額負担しなくなることでした。

両院協議会(Vermittlungsausschuss)は、連邦議会と連邦参議院の意見が食い違ったときに妥協案を作る機関。両院から16人ずつ、計32人で構成される。連邦参議院が招集を決めれば、法案をそのまま成立させず、修正案を協議することになった。

結果は、要求が承認されずに法案が可決された。

これは医療制度の構造改革というより、不足するお金を患者・加入者・医療機関に分担させる切り詰め策ではないのか、という印象を持たれても仕方ないかもしれません。

患者負担と保険料を増やし、診療報酬を抑えるだけでは、財政上の数字を一時的に合わせても、病院や診療所の減少、待ち時間の長期化、地域医療の弱体化につながりかねない。その結果、将来さらに大きな費用が必要になる可能性もあります。

医療機関の負担増に関しては、両院協議会が召集されていたら話し合われたであろう主なポイントが以下です。

これまで改革後
病院職員の労働協約による賃上げ健保側が増加分を原則100%補填一定の基準を超える賃上げ分は50%だけ補填
残りの負担健保側病院側

さらに、追加保険料を引き上げても加入者へ個別に通知しなくてよいという措置を「官僚主義の削減」としている点も、象徴的と言えます。事務負担の軽減というより、加入者が値上げや保険の変更機会に気づきにくくなる面があるわけで、改革の方向性はこれで良いのか考えさせられる。

私が2023年にドイツに赴任した際、帯状疱疹を発症したことがあります。何軒かの医療機関に電話をかけ、直接出向いたこともありましたが、「新しい患者は受け付けていない」と何度も断られました。

早期の治療が必要な病気であっても、診察してくれる医師を見つけること自体が難しかったのです。

記事でホームドクター協会が懸念しているのも、まさにその部分。

  • 地域によって診療を受けられなくなる
  • 予約までの待ち時間が長くなる
  • 一人の患者に割ける診療時間が短くなる

2023年時点ですでにこのような状況だったのが、今回の改革で、診療所への報酬をさらに抑えたり、職員の賃上げ負担が増えれば、医療へのアクセスが一層悪化するのではないか。これは容易に想像できますね。

自分で体験した後に、何が問題なのかと考えていたのですが、テレビの討論番組で参考になる意見を聞くことができました。

ドイツの保険診療では、医師や診療所ごとに、四半期単位の報酬枠が設定される仕組みがある。一定の範囲までは通常どおり報酬が支払われるが、その枠を超えると、診察した患者数に比例して満額が支払われるとは限らない。

つまり診療所側から見ると、

新しい患者を受け入れると
→ 診察や事務作業は増える
→ しかし報酬枠を超えると収入は十分に増えない
→ 医師とスタッフの負担だけが重くなる

新規患者を断るのは医師が冷たいからではなく、制度がそうさせている面があるわけだ。

しかも今回の改革では、診療報酬の伸びをさらに抑え、これまで報酬枠の外で支払われていた一部の診療まで制限する方向が示されている。ドイツの保険医協会も、診療件数の減少や医療提供の悪化につながると警告しているようです。

これで今回の問題が、単なる「自己負担が何ユーロ増える」という話ではなく、お金を払っていても診てもらえない制度になりかねないという恐ろしい現実が見えてしまいます。

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訳例

良いですね。

---引用---
ヴァルケン保健相の健康保険改革に道:
連邦議会と連邦参議院が緊縮一括法案を可決

連邦議会に続いて,連邦参議院も保健相の法案に賛成した。SPDが組閣する連邦州は,両院協議会に斡旋を依頼するよう主張していた。
---終わり---

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