宣誓は後回し?メルツ内閣改造に「憲法上不適切」の指摘/第924号

目次

ドイツでは、連邦閣僚は就任時に連邦議会で宣誓します。
ところがメルツ首相の内閣改造では、新閣僚が宣誓前に職務を始めました。

発端は、イェンス・シュパーンのCDU・CSU連邦議会会派代表辞任でした。メルツ首相はこれを機に、以前から考えていた内閣改造を前倒しし、政府・会派・CDU執行部の要職をまとめて入れ替えました。

しかし、新閣僚の宣誓は連邦議会の夏季休会後。職務開始から1か月以上遅れる異例の手順に、憲法上の疑義が示されています。

前回出題分

法律無視のメルツさん。人気は無くなってるけど、もう気にしてない?

„Verfassungsrechtlich unsauber“ – Jurist hat Bedenken wegen später Minister-Vereidigung

Die neuen Minister sollen schon nächste Woche ihr Amt übernehmen, aber erst im September vereidigt werden. Ein ehemaliger Chefjurist des Bundespräsidialamts hält das für problematisch.

welt.de
http://enchan.net/xl/pfwbrl

わたしの訳

「憲法上、適切ではない」― 閣僚の宣誓が遅れることを法律専門家が懸念

新閣僚は来週にも職務に就く予定だが、宣誓するのはようやく9月になってからだ。連邦大統領府の元主任法律専門家は問題だと見ている。

コメントなど

今回の問題は、「宣誓」→「就任」という順番が逆になるのは良くないという内容です。

メルツ首相による内閣改造と、連邦議会の夏季休会が重なったことで起きました。

新閣僚は、フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー連邦大統領から任命書を受け取った直後に職務を始める一方、連邦議会での宣誓は、夏季休会が終わる9月まで延期される予定です。

対象となっているのは、次の閣僚です。

新しい役職就任予定者
連邦首相府長官ニーナ・ヴァルケン
連邦保健相カルステン・リンネマン
連邦運輸相記事掲載時点では未定

ドイツ基本法第64条第2項は、連邦首相と連邦閣僚が「職務の引き受けに際して、連邦議会の前で宣誓する」と定めているのですね。

連邦大統領府の元主任法律専門家が、宣誓前に職務を始めることを「憲法上、適切ではない」と指摘しました。

適切な手順は次のいずれかだと言っています。

  • 連邦議会で宣誓してから、職務を引き継ぐ
  • 夏季休会中に連邦議会の特別会を開き、先に宣誓を済ませる

ただし、宣誓前に行った閣僚の職務上の決定が、直ちに無効になるわけではありませんし、一般的に、閣僚としての職務行為は法的に有効と考えられています。

政府側が何と言っているかというと

  • 任命と宣誓の間に密接な時間的関係が必要であることは認めながらも、次の通常国会で宣誓すれば十分。
  • 特別会を開けば、休暇中の議員をベルリンに呼び戻す必要があり、費用もかかる。

連邦議会の夏季休会を理由に、新閣僚の任命と宣誓がこれほど離れた例は過去になかったと法律専門家は言っています。

この問題が少し分かりにくいのは、「任命」と「宣誓」のどちらによって閣僚の地位が始まるのかが、一見すると食い違って見えるためです。

根拠定められていること
基本法第64条第1項連邦閣僚は、首相の提案に基づいて連邦大統領が任命・罷免する
基本法第64条第2項首相と閣僚は、職務の引き受けに際して連邦議会で宣誓する
連邦閣僚法第2条第2項原則として、任命書を受け取った時点で閣僚の職務上の地位が始まる

つまり、任命書を受け取れば閣僚としての地位は成立するため、宣誓前に行った職務まで無効になるとは考えにくい。一方、基本法は宣誓の時期を「職務の引き受けに際して」と明記しています。

問題になっているのは、閣僚として法的に有効か無効かという二者択一ではなく、憲法が予定している手順を政府がきちんと守っているかどうかです。

宣誓は、単なる就任式のような儀礼ではありません。閣僚が、ドイツ国民の利益に力を尽くし、基本法と連邦法を守り、職務を誠実に果たすことを、国民の代表である連邦議会の前で誓うものです。政府が議会に対して責任を負うことを目に見える形で確認する意味があります。

実際、シュタインマイヤー大統領も7月29日の任命式で、宣誓は政府の議会に対する責任を厳粛に示すものだと、その重要性を強調しました。そのうえで、宣誓が夏季休会後になることを「承知している」と述べ、異例の手順に対する距離をにじませています。

新閣僚3人は7月29日に任命され、未定だった運輸相はシュテフェン・ビルガー氏が就任しました。連邦議会での宣誓は、9月9日に予定されています。

特別会を開けば、この問題は簡単に避けられました。それを費用や夏季休会を理由に見送ったことで、「政府の都合を憲法上の手順より優先したのではないか」という疑念を招いた形です。

閣僚の決定が有効だから問題はない、というだけでは十分ではありません。民主主義では、結論だけでなく、決められた手続きを守ること自体が政治への信頼を支えています。

先例にないということは、それを押し通したい側にそれなりの理由があるからだと思われて当然ですね。

■ 発端はイェンス・シュパーンの辞任

今回の閣僚人事は、単独で行われたものではありません。発端は、イェンス・シュパーンのCDU・CSU連邦議会会派の代表辞任です。

シュパーン氏は、同性パートナーとともに米国で代理母出産を利用して子どもをもうけたことをめぐり、批判を受けていました。代理母出産はドイツでは認められておらず、CDUも反対の立場を取っています。

個人としての家族形成と、党・会派の政策的な立場との矛盾が問題視され、シュパーン氏は7月18日に会派代表を辞任しました。

■ 一つの辞任が三つの人事に波及

メルツ首相は、シュパーン氏の辞任を機に、連邦議会会派、連邦政府、CDU執行部の人事を同時に動かしました。

人物それまでの役職新しい役職
トルステン・フライ連邦首相府長官CDU・CSU連邦議会会派代表
ニーナ・ヴァルケン連邦保健相連邦首相府長官
カルステン・リンネマンCDU幹事長連邦保健相
フランツィスカ・ホッパーマンCDU財務責任者CDU幹事長
シュテフェン・ビルガー会派の院内総務連邦運輸相

補足すると、メルツ首相はパトリック・シュニーダー運輸相を交代させました。しかし、当初後任に予定していた人物が直前に辞退したため、運輸相人事は一時宙に浮きました。

シュニーダー氏への交代通告の仕方にも批判が集まり、CDU内部からは、メルツ氏の人事や意思疎通の進め方に対する強い不満が表面化しました。

つまり、CDUに明確な分裂が起きたわけではないものの、実にいろいろな問題が重なっていたと考えられます。

  • シュパーン氏をめぐる党の信頼性の問題
  • メルツ氏の人事の進め方に対する不満
  • 運輸相後任人事の混乱
  • 政策や人事について党内への説明が不足しているとの批判
  • メルツ政権とCDUの支持低迷に対する危機感

フライ氏は最終的に91.9%の高い得票率で会派代表に選ばれました。後任人事そのものにはまとまりを見せたものの、一連の混乱によって、メルツ氏の指導力やCDU内部の意思疎通に問題があることが浮き彫りになりました。

■ ドイツの閣僚は連邦議会で宣誓する

日本では、首相や国務大臣が国会の前で職務上の宣誓を行う制度はないですね。「宣誓」というと甲子園大会の開会式が頭に浮かびます。

ドイツでは、連邦首相と連邦閣僚が就任する際、連邦議会で次の内容を宣誓します。

  • ドイツ国民の幸福のために力を尽くす
  • 国民の利益を増進し、損害を防ぐ
  • 基本法と連邦の法律を守る
  • 職務を誠実に遂行する
  • すべての人に公正を尽くす

この宣誓は、単なる就任式の儀礼ではありません。閣僚が国民の代表である連邦議会の前で、憲法と法律に従って職務を行うことを約束し、政府が議会に対して責任を負うことを確認する意味があります。

■ 内閣改造を急いだのはなぜか?

メルツ首相はもともと9月ごろの内閣改造を考えていた。そこへSpahnが会派代表を辞任したため、後任を決める必要が生じた。

その機会を使い、政府・会派・CDU執行部の要職を、自分に近い人物でまとめて組み替えた、という見方ができる。

内閣改造は、理由なく行うと「これまでの人選や政権運営が失敗だった」と首相自身が認めたように見える。

しかし、Spahn辞任によって少なくとも会派代表の交代は避けられなくなった。

  • やむを得ない人事を起点にする
  • 以前から考えていた内閣改造も同時に行う
  • 政権刷新と実行力向上を演出する
  • 政府・会派・党の要所に側近を配置する

ARDの解説も、「理由のない改造は失敗を認めたように映るが、Spahn辞任によって改造が必要になった」と分析している。

メルツが実現したかった配置は、次のように見ると分かりやすい。

人物新しい配置メルツの狙い
トルステン・フライ会派代表議会会派を信頼できる側近に任せる
ニーナ・ヴァルケン首相府長官改革を進めた実行力を政権全体の調整に使う
カルステン・リンネマン保健相改革派を難しい社会保障改革に投入する
シュテフェン・ビルガー運輸相遅れているインフラ改革を立て直す

狙いは、政権の実行力を高めるとともに、政府・会派・党の主要ポストに信頼できる人物を配置すること。

しかし、予定を前倒しして一度に動かしたため、後任候補の辞退や党内への説明不足が重なり、「宣誓」後回しも含め、混乱が目立つ結果になりました。

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訳例

良いですね。

---引用---
“憲法的にはフェアでない”
法律家 時機を逸した大臣宣誓に疑義

新大臣は来週に官署を引き継ぐが、宣誓は9月になる予定だ。連邦大統領府の元主任法律家は、これを問題ありとしている。
---終わり---

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投稿期限:2026年8月7日(金)
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